不完全な音声入力

端末に話しかけるという行為も珍しいものではなくなった。

街中でも人々は各々の端末にボソボソ喋りかけ文章の入力をしていた。完璧な入力はできないが、単語レベルでの入力は可能。検索時などに使える。その程度の認識。完璧ではないがそれを前提とした使い方。

そんなところに国東という女がいた。しかしこの女のそれは、周りと少々異なっていた。周囲が簡易的なメモ程度にしか使っていないところ、彼女はこれを主たる文章入力として使った。検索も連絡も日記も、彼女が吐き出す文章はすべて文字通り音声にて入力されていた。そんな生活を長く続けていたせいか、彼女の話す声はより端末に聞き取りやすいように変化していった。

ある時それに気付いた旦那このままではいけないと、彼女を声優専門学校に送り込むことにした。どうせ仕事も学校にもいっていないのだ。卒業したってそこそこの年だ。声優になんかなれやしないんだから、せめてまともに喋れる声量でも身につけてほしい。そんな期待を知ってか知らずか、彼女は声優専門学校へと入学した。ところがこの国東とかいう女、入学するやいなや、めきめきと頭角を現していった。どうやら相手の欲する声を発することが得意らしく、指示の下完璧な音声を提供し続けた。あれよあれよと、いつのまにかラノベっぽい何かのレギュラーを持つまでに至った。

しかし、急に現れたものは消えるのも早いもので彼女の仕事はみるみる減っていく。マネージャーになんでもいいからと仕事を取って来させた。とってきた仕事をちまちまこなすがどうにも性に合わない。もっともっとでかいやつをとってこいマネージャーにそう言いつけた。マネージャーの頑張りが功を奏したのか、彼女のスケジュールはびっちり埋まった。毎日毎日雨のような仕事。彼女へ依頼はなくなることがなかった。

というのもマネージャーがとってきた仕事、声優というには少々特殊な仕事だった。

いくら技術が発展しても公演やイベントなど、全てを音声入力で書き起こすということは無理であった。修正修正そして修正。全てをテキスト化するのには莫大な手間がかかっていたのだ。そこに彼女がいた。彼女であればどんな音源でも端末の聞き取りやすい音声に変えることができた。安く早くテキスト化するには彼女を使うのが一番早かった。もはや人間コンバーター、何が原因でこうなったんだなんて考えてる暇は全然なかった。そこには大量の音声ファイルが日々アップロードされ続けていた。

小説 ガーリッシュ ナンバー (1)

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(この記事は音声入力によって取り込まれた文章を修正した)